2012年 06月 19日
粋ということ |
世田谷食堂は高台にあって、ゆるりとした坂道を下る途中には閑静な住宅地が続く。そのせいもあって、しばしば庭の手入れをする職人さんと出逢う。特に、この季節は毎日のように。
粋だなと思う仕事は、”寿司職人”と”庭師”だと勝手に思っている。先日も、短髪で髭をたくわえた植木職人が、まるで哲学者みたいな顔つきで枝を切っていた。凛とした立ち姿が美しくて、思わず振り返ってしまった。そして、久しぶりに祖父のことを思い出していた。
母方の祖父は腕のいい庭師だった。恐ろしく無口なひとで、いつもキセルをくわえていて、幼いワタシには、まるで時代劇のワンシーンのように思えた。丹精込めた坪庭には、松やら苔やら、大きな石や灯篭なんかが配置されていたが、子供にはワビサビなんてわかるはずもなく、片隅に置かれた気味の悪い蛙の置きものにクギ付けだったのだけど。祖父とは殆ど話したことがなかった。けれど、時々眼が合うと控えめに笑ってくれた。きっと、ワタシにしか気が付かないくらいに控えめに。痩せて小柄で、藍の半纏の似合う粋なひとだった。
ある学会で、有名すぎる庭師の先生の講演を聴く機会があった。京都の名だたる寺社の庭園を手掛けていて、時々テレビにも出演し、はんなりとした京言葉を話す。講演が終わってから、少し勇気を出して声をかけてみた。興味深くとても楽しかったとお礼を言い、自分の祖父も庭師だったこと、貴方を見ていて祖父を思い出したと言うと、彼は「おじいちゃんかー」と大袈裟に嘆いてみせる。まるで「僕は恋人候補じゃないの?」とばかりに・・・粋なのである。
今日も坂道を下り、流行りの「和モダン」なお屋敷を曲がるとき、ひょいと門から出てきた植木職人に、ワタシは一瞬固まった。ケイタイデンワで話してたのだ。右耳にぴたりと添え、話しながら足早に去って行ったのだ。まるで会社員、しかも営業マンのようにとてもスマートに。今どきなら当然・・・のことかもしれない。けれど、天国のおじいさん。貴方はどう思うかしら?眼の端に、ワタシにしかわからない笑みを浮かべてみせる?それとも何事もなかったように、長四角の灰皿にトンッと音を立ててキセルを消すのかな。銭形平次みたいに。
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粋だなと思う仕事は、”寿司職人”と”庭師”だと勝手に思っている。先日も、短髪で髭をたくわえた植木職人が、まるで哲学者みたいな顔つきで枝を切っていた。凛とした立ち姿が美しくて、思わず振り返ってしまった。そして、久しぶりに祖父のことを思い出していた。
母方の祖父は腕のいい庭師だった。恐ろしく無口なひとで、いつもキセルをくわえていて、幼いワタシには、まるで時代劇のワンシーンのように思えた。丹精込めた坪庭には、松やら苔やら、大きな石や灯篭なんかが配置されていたが、子供にはワビサビなんてわかるはずもなく、片隅に置かれた気味の悪い蛙の置きものにクギ付けだったのだけど。祖父とは殆ど話したことがなかった。けれど、時々眼が合うと控えめに笑ってくれた。きっと、ワタシにしか気が付かないくらいに控えめに。痩せて小柄で、藍の半纏の似合う粋なひとだった。
ある学会で、有名すぎる庭師の先生の講演を聴く機会があった。京都の名だたる寺社の庭園を手掛けていて、時々テレビにも出演し、はんなりとした京言葉を話す。講演が終わってから、少し勇気を出して声をかけてみた。興味深くとても楽しかったとお礼を言い、自分の祖父も庭師だったこと、貴方を見ていて祖父を思い出したと言うと、彼は「おじいちゃんかー」と大袈裟に嘆いてみせる。まるで「僕は恋人候補じゃないの?」とばかりに・・・粋なのである。
今日も坂道を下り、流行りの「和モダン」なお屋敷を曲がるとき、ひょいと門から出てきた植木職人に、ワタシは一瞬固まった。ケイタイデンワで話してたのだ。右耳にぴたりと添え、話しながら足早に去って行ったのだ。まるで会社員、しかも営業マンのようにとてもスマートに。今どきなら当然・・・のことかもしれない。けれど、天国のおじいさん。貴方はどう思うかしら?眼の端に、ワタシにしかわからない笑みを浮かべてみせる?それとも何事もなかったように、長四角の灰皿にトンッと音を立ててキセルを消すのかな。銭形平次みたいに。
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by setagaya-syokudo
| 2012-06-19 23:05
| エッセイ